2017年2月4日土曜日

「竹本健治『涙香迷宮』ミステリランキング制覇記念トーク」に行ってきました。第一部

1月26日に開催された「竹本健治・作家生活40周年! 『涙香迷宮』ミステリランキング制覇記念トーク」に行ってきました。
今までの会場から場所が変わってていきなり困惑…。
出演は主役の竹本健治さん他、喜国雅彦さん、千街晶之さんの3人。
さて、前回のトークイベントから4年ぶりかな。と思ってたら新作自体がなんと4年ぶり。
こち亀の日暮さんに並ぶオリンピック状態ですな。

※前回のトークイベント

さて今回もイベントレポ的なものをしたためてみますが、聞き書きですし当方のバイアスを通してるので、正確な言い回しとかはアレですけど、「だいたいこんな感じのことを話してました」くらいに察していただければ幸いです。
---------------------------------
・初めての竹本健治
喜国:ずっとミステリ好きだったけど、清張が売れてから離れた。ある日、連れが「占星術(殺人事件)」の文庫を持ってきて、当時、綾辻さんも3~4冊出てたけど「ケッ、今どき謎解きかよ」と読んだら衝撃を受けて「なんじゃコリャァ!」と。で、十角館を読んでまた「なんじゃコリャァ!」と(笑)
いつの間にこんな事になってるのを、何で誰も教えてくれなかったんだ!
で、色々集めて読んでみると綾辻さんやみんなが「竹本健治」「竹本健治」と書いてるわけですよ。

幻影城も創刊号だけ手にとって「SF特集」だったので一度も読んだことがなかった。
「探偵小説の復権」と言って創刊号がSF特集(会場失笑)、どういうつもりだよ(笑)。
で、竹本健治という名前をインプットして、これ

を見つけて…。そこからは全部買ってます。「匣」なんて何種類買ったか。

竹本:足を向けて寝られません。

千街:僕は、高校生くらいの時にトランプ殺人事件の文庫が出てて、
           
北海道の田舎だったもので、幻影城とか三部作とかもなくいきなりトランプから。
「トランプ」を最初に読んで「なんて不思議なミステリなんだ」と。
そこから「匣」を読んで、「この若さで!」と衝撃を受けて、大学の卒論で竹本健治論を書くに至りました。よく教授は受け付けてくれたもんだなと思いますけど(笑)


・出会い
喜国:初めて会ったときのこと覚えてますか?山田風太郎さん家ですよ!
山田風太郎と麻雀を打つと言う取材で、僕と我孫子さんと3人で。

竹本:半荘2回くらいやったけど、山田さんは最初の東場くらいで抜けて。
僕の自慢は、中井英夫と山田風太郎と麻雀をやって、どっちも勝った!(会場笑)


・三大奇書
千街:どういう順番で読みました?

竹本:まず「ドグラ・マグラ」かな、夢野久作全集を読んでその中に「中井英夫全集」のしおりが入ってて「これは絶対読まにゃいかんじゃない?」と読んで、黒死館は最後…あれは時間かかったな…

千街:あれは時間かかりますね!
僕は最初は「虚無」だったと思うんですけど…、まず黒死館に手をつけて挫折して(笑)ドグラマグラを読んで、最後に黒死館だったと思うんですけど。

喜国:僕は教養文庫でドグラ・マグラです。高1のとき。創元が日本人の全集を出したので火がついて虚無を読んで、ひとつ残ったので大分あとになって黒死館。匣のずっと後です。
「匣」の連載が始まって今年で40周年ですよ、新本格30周年、竹本健治40周年。傷だらけの天使たちが始まって29年!(会場笑)ちょっと足りない~。
              


・匣の中の失楽
千街:(匣を)連載で書くのは大変だったと思うのですが…?

竹本:うん…、なんかもう、当時の記憶がボロボロなんですけど…、妙な自信はあったんですよね。
それまで考えてたのは真っ当なミステリだったから、1200枚にするためには何か大仕掛けが必要だから、中井さんから話を頂いて急遽あの構造を思いついて…。

千街:1200枚と言うのは前提としてあった?

竹本:自分の中で決めてて。それで密室を用意してあっちやこっちや…。

喜国:若さって怖いですよね。昔描いたものを覚えてないので読み返すと、オチを予想しながら読むんですけど、その上を行ってるんですよね。いまの僕は昔の僕に勝てないんです。

竹本:今度、ゲーム三部作が再刊するんですが、僕、将棋殺人事件は何回も筋を忘れちゃうんです(会場笑)、まっさらな読者として将棋殺人事件を読んで「ああ…どうなるんだろう?」(会場失笑)「まさか校長先生が…ああ、違ったぁ!!(笑)」

喜国:ただ、歳をとるとアレンジ能力はあがって、「美味しい料理」は作れるんだけどオリジナルの料理は出来ない。

竹本:大胆な発想っていうのが違うね。


・幻影城
千街:「匣」を書き上げた時の達成感は?

竹本:途轍もないものがあったと思いますね。書いてる最中、今では想像できない自分の中でのお祭り騒ぎで、人生のボルテージがあんなに上がってた時期は無かったですね、頂点でしたね。

千街:その分、その後のプレッシャーっていうのは…?

竹本:プレッシャー!、ああいうものでデビューしちゃうと、ああいうものを書く作家だと思われちゃうみたいで、「囲碁」を書いたときに、すごいまっとうなミステリなんで、この落差に戸惑った感じがひしひしと伝わってきて…。
「え?毎回『匣』みたいなの書かなきゃいけないの…?(笑)」でもだんだん地金が出てきて将棋とかトランプとか書いちゃいましたけど。

・イメージ
竹本:作品から受けるイメージでは、「怖いおじさん」ぽいと昔から言われてて。そんなことないんですけどね~。

千街:匣の中の失楽から入ると、気難しい人と言うイメージになるかも…
ウロボロスから入るとまた違ったイメージになるんじゃないかと。

竹本:「キララ」から入ると…(会場失笑)、単なるスケベなオッサン(笑)
             

・闇に用いる力学
喜国:「闇に用いる力学」、読んでる人いますか?
「青」が始まる前に千街さんがこれまでのまとめを書いてくれてて、僕はあれで助かりました。あれがないと無理!

竹本:僕も助かった~(会場笑)

・ウロボロス
千街:竹本さんは、一時期ミステリ嫌悪みたいな状態だったと聞いていますが、今はそう言うことはない?

竹本:全くないですね。というか…その当時なんでそんなにミステリを嫌っていたかというのも覚えてない…
たぶん、「匣みたいなのをもう一回」という無言のプレッシャー…が大きな比重を占めてます。

千街:第二の大作として「ウロボロスの偽書」があるわけですが、もともと「匣」も実名小説と言う構想から生まれたもので、実名小説をぜひともやりたかったと言うことでしょうか?
                 
竹本:えー…、ウロボロスを書き出したときの気持ちなんてもう全然忘れちゃいました…(会場笑)

千街:「このミス」と「文春」でもベスト10入りしましたがその時の心境は?

竹本:「匣」の呪縛がある程度吹っ切れたかな?と言う気がしますね~。

・狂い壁狂い窓
喜国:みんな「匣」「匣」言うけど僕ちがうんですよ。「狂い壁!」
これまでの人生で読んだホラー的なやつで一番怖かった!
              

千街:私もそうですね。

竹本:「狂い壁」が一番怖かったと言ってくれる人が何人かいる。

喜国:読んでる最中は「あ、これホラーだわ、と思ってたらミステリーでちゃんと落ちてて二度びっくり!」

千街:文章が怖かったですね、語彙の限りを尽くして畳み掛けていくみたいな。
「狂い壁」のように、実体験を作品の中に反映して書くことはよくあるんですか?

竹本:考えれば「匣の中の失楽」の最初の密室…、あれは全く僕が住んでた部屋と同じ。
鍵も全く実際の奴で、「あ、こんな変な密室が出来る」と言うのが出発点で、結構自分が住んでた所をモデルにすることはありますね~。

喜国:これからネタに困ったら引越しすればいい!(会場笑)

・入神
千街:住居と言いますと、「入神」の時に江戸川橋の仕事場に結構長く…。
              
竹本:南雲堂に「マンガを描いてほしい」と頼まれて、最初はミステリマンガだったんですけど、凄くハードルが高いので「囲碁でやらせてください」と言ったんだけど、仕事場がほしいな~。と思って南雲堂に頼んだら「どうぞ使ってください」と倉庫を貸してもらってから17、8年…?(笑)

喜国:もうほとんどオバQかドラえもんですよ(笑)、知らない間に住んでるっていう。

千街:喜国さんから見て、竹本さんの「入神」という作品はいかがでした?

喜国:うらやましいですよ~、アシスタントが!(会場笑)

千街:たしかに。131人でしたっけ?アシスタントが。

喜国:カムイ伝の登場人物より多い!(笑)、こっちはプロなんで、やる気満々で出かけていったわけですよ。「竹本さん、どこやりましょう?!」って、そしたら「ああ、そこベタ塗っといて」って(会場笑)

竹本:先に言ってくれれば、TV局の所とかやってもらったのに~(笑)

千街:喜国さんが竹本さんの作品をマンガ化するとしたら、やってみたいものはありますか?

喜国:やっぱり狂い壁ですよ!

竹本:やって…(笑)、講談社さ~ん。
---------------------------------
という感じで第一部は終了。面白い話ばかりでなく、創作の秘密なども聞けるエキサイティングな内容でした。
第二部に続きます。